May 26, 2020
その契約書大丈夫ですか?~契約書作成の際にチェックすべきポイント~
1 はじめに
スポーツ関係者の方は、あらゆる場面で様々な契約を締結し、その多くの場面で契約書を作成していると思います。みなさんが契約書を作成する目的は、大まかに言えば、自分の権利を守り、相手の義務内容を明確にすることにあると思います。
しかし、契約書にどういうことを記載しておくべきかをきちんと理解していなければ、そもそもその契約書で自分の権利を守ることができるのか等を判断することができません。
そこで、スポーツ関係の契約に限ることなく一般的な契約を念頭に置いて、あらゆる契約でも注意すべき点をいくつか連続した記事で説明いたします。
2 「誰が」する(できる)ものかを明示しているか
これは、主語をきちんと明示しなければならないということです。これだけ聞くと、「そんなことは当然で、わざわざ言われるまでもない」と思う方が多いでしょう。
確かに、契約書の冒頭に書かれることが多い、その契約で両当事者が主に何をするのかを定めた条項(たとえば、「甲は乙に対し、スポンサー料として100万円を支払う。」など)は、きちんと主語が明示されていることが多いでしょう。
しかし、契約書の多くは、それ以外にも様々な条項が書かれていると思いますが、すべてにおいて徹底されていますか?
たとえば、ある事件では、乙が甲に対して契約書上の解除事由を理由として契約解除を主張しましたが、契約書内の契約解除権を定めた条項には、主語が「甲は」とだけ記載されており、乙ができることは明示されていませんでした。
この事件で契約に基づく解除権が争われた際、乙は、「一方にだけ解除権が認められているなんておかしい。契約で定められた解除権は当然乙にも認められているはずだ」と主張しましたが、そうはいっても、両者の合意で締結した契約書には乙の解除権は定められていません。結局、その事件の裁判では、乙には解除権が認められないということを前提に進められました。
(※なお、ここで問題になっている解除権は、あくまでも契約で定められた解除事由に基づく特別の解除権のことであり、民法等の法律により認められている解除権(債務不履行解除など)は双方に認められます。)
3 「当たり前の権利」を「当たり前」に行使できるように
この事件を聞いてみなさんはどう感じましたか?「一方にだけ認められて他方には認められないなんておかしい」という乙の主張もあながち不合理ではありませんし、むしろ対等な立場の者同士では双方に同様の権利があることが当たり前だとも思いませんか?
しかし、その「当たり前」もひとたび契約書を作成し、その中に記載されなかった場合には当たり前ではなくなるのです。
なぜなら、むしろ対等な立場の者同士であれば、契約内容についてはお互いが意見を言い合えるはずで、そうした意見交換をしながら契約書を作成し、その内容で問題がないと双方が考え、完成させるのが通常です。
そうすると、裁判所からすれば、「乙は契約書の条項について意見を言うことができ、契約内容に自分の解除権が定められていないこともわかっていたにもかかわらず、それを受け入れてサインしたのだから、この契約においては甲にのみ契約上の解除権を認めるという合意がされたのだろう」と判断されてしまいます。
もちろん、実際の事例では、契約書の文言だけで判断されることはなく、契約書作成の経緯、両当事者の力関係、それまでの両者の取引慣行など様々な事情が考慮されるので、一概にすべての事例で上記と同様の判断がされるとは限りません。
しかし、逆に言えば、契約書の文言だけで判断した場合には、当たり前だと思っていた権利が認められない内容となってしまっているのです。
4 おわりに
今回は解除権を例に説明しましたが、主語を明示していない場合に問題になり得る条項は他にもたくさん考えられます。
上記の事例でも、「甲及び乙は」となっていれば問題は生じませんでした。しかし、「乙は」というたった二文字が欠けているだけで、当たり前にできると思っていた権利が行使できなくなってしまうのです。
「あの契約書大丈夫かな!?」と思ったものはありませんか?
現在締結している契約書を一度確認してみてください。また、今後契約書を締結する際には、当たり前だとあなどることなく丁寧に各条項の主語を確認することをお勧めします。