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時事問題

スポーツにおけるパワーハラスメントが原因で懲戒処分を受けた指導者の復帰に関する提言

第1 はじめに

近年、プロスポーツにおいて指導者が選手に対するパワーハラスメント(以下「パワハラ」といいます。)を理由に解任された事件、運動部において指導者からのパワハラが原因で生徒が自殺した事件など、スポーツ界の指導者によるパワハラ事件がメディア等で多く取り上げられています。

スポーツにおけるパワハラは、スポーツの本質の1つである「楽しさ」と相反するものであり、スポーツ関係者の競技を楽しむ権利(又は豊かな競技生活を送る権利)を侵害するものです。実際、パワハラが原因で、競技人生を棒に振った選手・生徒(以下「選手等」といいます。)や、指導者人生を棒に振った指導者が数多く存在します。

パワハラを伴う指導を行えば、短期的には競技の成績が向上することがあるかもしれません。しかし、選手等の思考やプレーを萎縮させてしまい、選手等が当該競技を楽しめなくなり、自主的・主体的に考えてプレーをしたり、課題解決を行ったりする素地を奪ってしまう危険性が高くなると考えられます。スポーツ関係者が競技を楽しむ権利・豊かな競技生活を送る権利を享受するためにも、ひいてはスポーツ界の発展のためにも、パワハラを伴う指導を予防することは非常に重要な課題です。

また、一方で、パワハラを伴う指導を行ってしまった指導者が、そのことが原因で懲戒処分を受けた場合に、当該指導者が指導者として競技の現場に復帰することの是非やそのプロセスについても問題となります。

近年、公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)や公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)等のプロスポーツにおいて、パワハラが原因で懲戒処分を受けた指導者がスポーツ界に復帰したという事例が、メディアやSNS等で取り上げられていますが、復帰を歓迎する声がある一方で、批判の声や永久追放等の重い処分を求める声もあり、世間において多様な捉え方があるようです。

本稿では、スポーツにおけるパワハラに関し、事前予防の重要性についても触れつつ、主に「スポーツにおけるパワーハラスメントが原因で懲戒処分を受けた指導者の復帰」に関して、再発防止の重要性、再発防止を目的として行われている競技団体の取組事例を紹介しながら、指導者の復帰に向けてスポーツ関係者が留意すべき点等について検討します。

第2 パワハラが与える影響

1 法律上の責任

(1)そもそも、スポーツにおけるパワハラとは、「同じ組織(競技団体、チーム等)で競技活動をする者に対して、職務上の地位や人間関係などの組織内の優位性を背景に、指導の適正な範囲を超えて、精神的若しくは身体的な苦痛を与え、又はその競技活動の環境を悪化させる行為・言動等」をいいます[1]

また、スポーツにおけるパワハラに該当する具体的行為は、①身体的攻撃(指導者が指示に従わない選手を殴打する行為等)、②精神的な攻撃(指導者が長時間にわたって厳しい叱責を行い続ける行為等)、③人間関係からの切り離し(指導者が特定の選手を無視し、チーム内で孤立させる行為等)、④過大な要求(指導者がミスをした選手に対して、過度な居残り練習や罰メニューを課す行為等)、⑤過小な要求(指導者が合理的な理由もなく選手に練習をさせない行為等)、⑥個の侵害(指導者が選手のプライベートなことに過度に介入する行為等)に分類されます。

(2)スポーツにおけるパワハラが行われた場合、指導者には、①刑事上の責任、②民事上の責任が追及されたり、③加盟する競技団体等から処分を受けたりする可能性があります。

具体的には、①刑事上の責任として暴行罪(傷害罪、傷害致死罪)、脅迫罪、強要罪、名誉毀損罪、侮辱罪等が、②民事上の責任として選手等に対する損害賠償責任が考えられます。また、③競技団体からの処分としては、戒告、けん責、罰金、資格停止、資格取消、除名等の処分が考えられます。

2 選手等に与える重大な影響

スポーツにおけるパワハラを受けた選手等は、心身に重大な傷を負うだけでなく、競技成績が低下してしまったり、競技からの離脱を余儀なくされたりすることもあります。これは、選手等のアスリートとしてのキャリアを潰してしまうことを意味し、選手等自身の人生に大きな影響を与えるとともにスポーツ界全体にも大きな損失を与えることになります。

この点、スポーツ界においては、競技力を向上させるために多少のパワハラは必要であると考える者が少なからず存在します。特に、暴力等の「厳しい指導」により競技人生において成功したと捉えている指導者においては、自分が選手時代に受けてきた暴力等の指導を間違いのないものと考え、この指導方法を支持する傾向にあるようです。

また、スポーツ界には勝利至上主義的[2]な考え方がまだ根強く残っており、指導者は限られた時間で指導を行い、勝利という結果を出すことを過度に要求されているようにも思います。そのため、勝利のみを求める指導者が、指導に対する捉え方や指導方法を十分にアップデートしないまま、自身が選手時代に受けてきた暴力等の指導方法を継続してしまうことがあるように思います。

しかしながら、選手等が指導者のパワハラを恐れ、指導者の顔色をうかがいながら練習・試合等を行っていては、スポーツの本質の1つである「楽しさ」を実感することはできません。また、選手等が自主的・主体的に考えてプレーをすることが困難となり、真の競技力を向上させることもできず、選手等の成長にも繋がりません(元プロスポーツ選手の中にも、指導者からのパワハラを受け続けた結果、プロになった後においても、「試合が怖い」「レギュラーになりたくない」等のネガティブな思考に陥り、スポーツを楽しいと思えないまま、早期に引退した人もいます。)。

このように、スポーツにおけるパワハラは、これを受けた選手等に対し、身体的に負担を与えるだけでなく、「心の成長」をも阻害し、場合によっては深いトラウマを抱かせてしまうなど、選手等のキャリアをも潰しかねないものであると認識する必要があります。

3 小括

スポーツにおけるパワハラは、指導者の指導者人生、選手等の競技人生等を潰すものであり、スポーツ界全体に大きな損失を与えることになります。また、近年では、パワハラに対して厳しい目が向けられているため、サポーター離れ、スポンサー離れ等の経済的悪影響をも及ぼしかねません。それゆえ、このような損失、悪影響等を防止するためには、スポーツにおけるパワハラの事前予防が何よりも重要です。

事前予防のために必要な取組みについては、別稿でご紹介しておりますので(URLを貼付)、次項以下では、スポーツにおけるパワハラの再発防止のための取組み、パワハラを伴う指導を行い懲戒処分に処せられた指導者の復帰について検討していきたいと思います。

 

第3 スポーツにおけるパワハラが原因で懲戒処分を受けた指導者の復帰について

1 懲戒処分を受けた指導者の復帰の是非

指導者がパワハラを理由として懲戒処分を受けた場合に、当該処分の内容を全うした後(資格停止処分等であれば資格停止期間を経過した後)、指導者として現場に復帰することの是非はどのように考えるべきでしょうか。

当該指導者の指導力が評価されていたり、過去に結果を残してきた指導者であれば、現場に復帰することを歓迎するような声が上がる一方で、パワハラを行ったという事実に対して処分を全うした後もなお批判を受け続けたり、場合によっては、資格停止等の処分では十分ではなく永久追放や除名等のより重い処分を課すべきである(指導現場に復帰させる道を用意するべきではない)といった厳しい世論を目にすることもあります。

もちろん、当該指導者の行った行為に対する処分として永久追放や除名等の重い処分が妥当する場合もあります。そのような場合には、当該競技の指導現場に復帰することはできず、復帰の是非を論じる余地はありません。

しかし、資格停止処分や活動停止処分のように、一定期間活動ができないという処分を下された場合に、その期間を経過した後にまで指導現場に一切復帰できないとすると、それは永久追放等と同等の処分を下されたこととなり妥当性を欠くのではないでしょうか。

場面は異なりますが、犯罪行為を行った者が一定期間の懲役刑(刑法改正後は拘禁刑)に処せられた場合(ここでは執行猶予が付されていない場合とします。)、当該期間を経過すれば(当該期間、刑務所において刑を全うすれば)社会復帰することができます。これは、刑務所内で自らの犯した犯罪について真摯に反省するとともに、「懲役刑」の内容である刑務作業を行うことによって、規律ある生活態度及び共同生活における自己の役割や責任を自覚させ、社会復帰に向けた更正プログラムを履践したと評価されるためです。刑務作業を行わない場合でも、社会復帰に向けた指導を受けます。)。

パワハラによる懲戒処分の場合、刑罰を処せられたわけではありませんので、刑罰を処せられた場合と同様に論じることはできませんが、処分を受けて一定期間活動が制限される点において共通していることから、刑罰(特に懲役刑・禁固刑(現在の拘禁刑))を処せられた場合の社会復帰プロセスについての考え方は参考になるものと思われます。

また、懲戒処分よりも重い刑罰を受けた者でさえも、(一定の職種には就くことができなくなるという制限は受けるものの)社会復帰を果たし、従前と同様の社会生活を営むことができるようになるわけですから、懲戒処分を受けた指導者も、過去のパワハラについて真摯に反省し、懲戒処分の内容を全うした上で、適切なプログラム等を受講すれば、指導現場に復帰することができると考えるべきでしょう。

2 懲戒処分を受けた指導者の復帰事例

ここで、現在の日本のスポーツ界において、パワハラが原因で懲戒処分を受けた指導者の現場復帰について、実際に、どのような事例があるか見てみたいと思います。

 

⑴ Bリーグにおける事例

当時香川ファイブアローズのヘッドコーチであった衛藤晃平氏(以下「衛藤氏」といいます。)は、①選手に対する暴力行為、②選手やチームスタッフに対する暴言、③選手に対するその他の行為等を行ったところ、Bリーグから、上記行為が「豊かなスポーツ文化の振興および国民の心身の健全な発展に寄与する」というBリーグの目的に反する悪質な行為であること等を理由に、令和元年8月8日、1年間の公式試合に関わる全職務の停止処分(Bリーグ規約3条2項、4項、122条2項4号[3])を受けました[4]

衛藤氏は、上記処分を受けた後、令和3年6月頃、アースフレンズ東京Zのフロントスタッフに就任し、プロバスケットボール界に復帰するとともに、令和4年6月頃には、同チームのゼネラルマネージャー(チーム編成、チーム統括等の役割)に就任しました[5]。その後、アースフレンズ東京Zのヘッドコーチとして、選手等に対する指導に当たっています。

このケースでは、アースフレンズ東京Zは、衛藤氏を指導者として迎え入れるにあたり、Bリーグに対し、リスクを軽減する観点から、衛藤氏が懲戒処分を受けた後の過酷な生活状況、反省状況、復帰内容等について、定期的に情報共有を行い、リーグ側からの理解を得ていたようです。また、スポンサーに対しても事前に情報共有を行い、衛藤氏の復帰につき賛同を得ていたようです。

 

⑵ Jリーグにおける事例

当時J1クラブの監督が、①スタッフに対するパワハラ行為、②選手に対する不適切又は問題となり得る言動を行ったところ、Jリーグから、けん責(始末書をとり、将来を戒める)及び公式試合数試合の出場資格停止処分(Jリーグ規約3条2項)を受けました。なお、その後、公益財団法人日本サッカー協会(JFA)は、同監督に対し、S級コーチライセンスを一定期間停止する処分を下しました。

同監督は、上記処分を受けた翌年から研修の一環として、大学サッカー部のコーチに就任し、その翌シーズンからJ2クラブのトップチームの監督に就任し、プロサッカー界に復帰しました。

このケースでは、同監督は、パワハラが原因で上記の懲戒処分を受け、プロサッカーの現場を離れた後、欧州において戦術面を学んだり、大学サッカー部のコーチとしてスタッフや選手一人ひとりの気持ち、思いの深い部分まで理解する姿勢を学んだりしたようです。そういった復帰プロセスを歩んだ後、J2クラブのトップチームの監督に就任しています。

 

⑶ その他の事例

一方、一度体罰が原因で指導者を退いた後、再度指導現場に復帰したものの、再度パワハラが発覚して指導者を解任された事例もあります。

ある駅伝の指導者が県立高校で指導していた当時、多数の体罰を行っていたことが発覚し、県教委から停職4ヶ月の懲戒処分(1年間の指導の自粛も含む。)を受け同校を退職しました(同時に駅伝部の監督からも退いています。)。その数年後、母校でもある大学の駅伝監督に就任しましたが、再び同部でのパワハラを伴う指導が発覚し、大学の調査及び倫理委員会による審議を経て監督を解任されました。

このケースでは、高校の監督を退いてから大学の監督に就任するまでのプロセスは報道からは窺い知ることができませんが、高校での体罰が発覚したにもかかわらず、実績が評価されPTA関係者から指導継続を求める署名が数万通も集められていたそうです。競技の結果を出していれば指導者として評価されるようにも見え、指導者のみならず関係者たちの体罰やハラスメントに対する認識の甘さが垣間見えます。

 

3 復帰にあたり留意すべき点

⑴ スポーツ団体側が留意すべき点

ア 復帰プロセスにおける留意点

パワハラが原因で懲戒処分を受けた指導者であっても、パワハラに関する認識を改め、指導方法を改善させれば、当該競技において競技レベルにおいても育成面においても多大な貢献が見込める指導者もいると思われます。処分を下したスポーツ団体側としては、いかに当該指導者にこれまでの指導を改めさせ、パワハラの再発防止を図るか、その上で、いかにして当該競技に貢献してもらう機会を作るかが重要になってきます。

イ 再発防止についての取組み

指導者を現場に復帰させるにあたり、スポーツ団体側としては、当該指導者によるパワハラの再発防止についても実効性のある取組みを行う必要があります。どのような取組みを行うべきかを検討するにあたっては、以下のようなパワハラを行う指導者の類型やそれぞれの特徴についても考慮する必要があるでしょう。

すなわち、パワハラを行う指導者には、主に、①確信犯型(暴力等を行うことが誤りだと認識しておらず、有益で必要だと確信している)、②指導方法わからず型(暴力等をふるうことが禁止されていることは理解しているものの、暴力等に頼る以外の指導方法を知らない)、③感情爆発型(暴力等をふるうことが禁止されていることは理解しているが、感情のコントロールを失って暴力等をふるってしまう)、④暴力行為好き型(ストレス解消等のため暴力等をふるい、暴力等をふるうことを楽しむ)に分かれると考えられています。

このうち、①③④については、指導者の心の問題もしくはコミュニケーションの問題が背景にあると考えられます。このような類型においてパワハラの再発を防止するためには、指導者自身が心の問題やコミュニケーションのあり方に目を向けられるようになる復帰プログラムを用意する必要があるでしょう。

また、①②のような類型では、指導者自身が過去に同じようなハラスメントを伴う指導を受けてきた結果、(その指導によって競技者として一定の成功を収めたと考えている場合には特に)そのような経験が自身の指導方法にも反映され、根強く残ってしまうという問題を孕んでいます。このような類型において再発を防止するためには、上記のような心の問題やコミュニケーションのあり方だけではなく、スポーツが誰のためにあるのか、指導者のあるべき姿など、どのような指導が「良い指導」なのかを考え、自身の指導法を客観的に見直すことのできるプログラムが有益といえるでしょう。

具体的には、上記の類型に応じて、自身の指導法を省みる機会の創出、パワハラや指導法等に関する研修・講習等の受講、専門家によるサポート・協力を組み合わせたアプローチが考えられます。

また、指導者に対し、これらの研修を継続的かつ定期的に実施させるような制度づくりも必要です。

これらのアプローチを徹底することで、指導者に対して心やコミュニケーションの問題、指導に対する考え方を改善することができ、パワハラの再発防止に繋がると考えます。

ウ 参考になる具体的な事例

近年では、中央競技団体等において、指導者におけるパワハラの再発防止のため、研修プログラムを整備するとともに、他の中央競技団体との間で情報共有を行うなど、様々な取組みを実施しています。以下では、注目すべき再発防止の取組みとして、公益財団法人日本バスケットボール協会(JBA)の取組みを紹介します。

JBAは、コーチライセンス制度を整備するなど、パワハラの事前予防に向けた取組みを実施するとともに、コーチライセンスを保有する指導者がパワハラが原因で懲戒処分を受けた場合の再発防止として、研修プログラムの受講を義務化しています(倫理規定6条1項[10])。

そして、「研修プログラム運用細則[11]」において、懲罰対象者の懲罰期間及び保有コーチライセンスごとに、受講すべきプログラム内容を定めています。なお、プログラム内容としては、①反省文の提出、②倫理やコーチング、指導法等に関する研修・講習等の受講(基本的に3時間以上)、③レポートの提出(受講した研修・講習等の感想等を記載したもの)、④専門家によるカウンセリングの受診が想定されています。

このうち、①の反省文の提出は、ややもすると形式的な課題となりかねません。

しかし、JBAの「研修プログラム運用細則」では、(ⅰ)「今回の行為に至った理由」(行為内容や行為によって生じた影響、行為に至った背景や因果関係を思い返し、行為の不適切さや他に考えられた選択肢などを客観的に振り返る)、(ⅱ)「読書感想」(課題図書:『スポーツにおける真の勝利~暴力に頼らない指導』(エイデル研究所)等)及び(ⅲ)「今後同様の行為に至らないために、すべきこと」(自身の行動をどのように変容させるのかを具体的に記載)について、1600~2000字程度記載することが求められています。そして、当該反省文の内容について、心理学を専門とする大学教授によって審査が行われ、上記(ⅰ)ないし(ⅲ)について再検討する必要があると判断した場合には、JBAにおいて当該指導者に対して、反省文の再提出を求める運用になっています。

このように、形式的に反省文を提出させるだけでなく、当該指導者に自身の指導を反省させるための実効性ある機会が確保されているといえ、大いに参考になります。

さらに、JBAは、他の中央競技団体(公益財団法人日本サッカー協会(JFA)、日本ラグビーフットボール協会(JRFU))との間でも、3か月に1回程度、パワハラの再発防止等の観点で情報共有を行うなど、協会間の連携を深める機会を設けるなどの有意義な活動を行っています。

このような取組みは他の団体においても参考にすべきものであり、スポーツに関わるすべての者が、パワハラの再発防止にについて考え続けることが重要といえます。

 

⑵ 指導者を現場復帰させるスポーツチーム等における留意点

ア 復帰プロセスにおける留意点

指導者を復帰させるスポーツチーム等においても、スポーツ団体と同様の点に留意すべきでしょう。

それに加えて、指導者を迎え入れるスポーツチーム等としては、様々なステークホルダー(親会社、株主、スポンサー、チーム関係者、サポーター等)に対して、なぜ当該指導者を迎え入れるのか、当該指導者が復帰するにあたりどのような取組みを行ってきたのかをきちんと説明し、理解を得る必要があるでしょう。この点については、前述したアースフレンズ東京Zの事例が非常に参考になると思われます。

 再発防止についての取組み

再発防止についての取組みも、スポーツ団体と同様の点に留意すべきです。

それに加えて、当該指導者の指導現場を直接監督できる立場にあるため、スポーツチーム等としては、当該指導者の復帰後の指導についても、指導現場を観察しに行く、指導現場を動画撮影する、チームとしても継続的に指導者研修を行う、当該指導者とのコミュニケーションを密にする、選手やスタッフからの相談ができる環境を整える(相談窓口、チームスタッフに対する相談の場を設けるなど)といった工夫を行っていくべきでしょう。

その上で、当該指導者の指導において気になる点があれば、早期に注意、意見交換し、当該指導者とともにパワハラが再発しないよう協力しながら取り組む必要があると思います。

 

⑶ 復帰する指導者における留意点

ア 復帰後のあり方について

そして、何より、復帰する指導者自身が、自身の信頼を回復するためにも、以下のような点にきちんと留意しながら、その後の指導に取り組んでいく必要があるといえます。

①自分自身の過去の指導方法について真摯に反省し、自らの課題や改善すべき点と真摯に向き合うこと

②懲戒処分を受けた後の行動が全て見られているという意識を持つこと

③復帰後の指導についても日々振り返り、より良い指導を目指して自身の指導法を向上させる意識を常に持つこと

イ 復帰後の取組み

スポーツ団体やチーム等において、懲戒処分を受けた指導者の現場復帰のためのプログラムが用意されている場合には、以上のような点に留意しながら、指導者自身が当該プログラムと真摯に向き合い、良い指導とはどのような指導かを考え続ける必要があるでしょう。

また、スポーツ団体やチーム等が上記のJBAの事例のようなプログラムを用意していなかったとしても、自主的に指導者研修や指導者講習のような場に参加する、他のチームや他の競技の指導者と情報交換・意見交換を行う場を設ける、国内外を問わず様々な事例からより良い指導とはどのような指導かといった点について研究を重ねることが非常に重要でしょう。

第4 最後に

以上に見てきたように、パワハラ自体は、選手等の競技人生を台無しにしかねず、指導者自身の指導者人生も潰えさせてしまうものであり、決して許されるものではありません。

しかし、パワハラが原因で懲戒処分(永久追放や除名は除く)を受けた指導者について、当該指導者が懲戒処分の内容を全うし、資格上の問題が解消されており、復帰に向けた必要なプロセスを経た結果、指導者としての資質を確保できるという判断がなされる場合には、当該指導者も指導現場に復帰できるとすべきであると考えます。

パワハラの再発防止という観点のみで考えると、当該指導者を当該競技に復帰できなくすることで再発の防止を図ることは可能であるようにも思えます。しかし、当該競技の発展及び指導者のキャリアの観点も踏まえて考えると、これまでに整理してきたとおり、指導現場に復帰できる機会が与えられるべきでしょう。

誰しも過ちを犯す可能性はありますが、一度過ちを犯した者は二度と受け入れないとするよりも、当該過ちを真摯に反省し、適切なプログラムによって学び直した者については復帰させるとする方が、当該競技にとってプラスになる点も多いでしょう。

そして、そのような指導者を復帰させるにあたっては、当該協議を統括するスポーツ団体、当該指導者を復帰させるチーム等、復帰する指導者本人それぞれが、理想とする指導者像を共有し、そのために果たすべき役割を果たす必要があり、さらに復帰後の当該指導者の指導を見守っていく必要があるでしょう。

 

 

[1] https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/sports/020/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2014/03/10/1342651_05.pdf

[2] 勝利至上主義とは、「勝利に最上の価値を見出す価値観のこと」をいいます。

[3] https://www.bleague.jp/files/user/about/pdf/r-02.pdf

[4] https://www.bleague.jp/news_detail/id=66255

[5] https://eftokyo-z.jp/news/220615-01

[6] https://www.jleague.jp/news/article/15635/?utm_source=youtube&utm_medium=social

[7] https://www.bellmare.co.jp/226021

[8] https://news.yahoo.co.jp/articles/ea87ffce3c8fb01760613ba421e0b596ca48218a?page=1

[9] https://real-sports.jp/page/articles/596535306484712489/

[10] http://www.japanbasketball.jp/wp-content/uploads/ethics_20230308.pdf

[11] http://www.japanbasketball.jp/wp-content/uploads/training-program_20211013.pdf

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