April 2, 2020
eスポーツの法的課題
eスポーツとは、electronic Sportsの略語で、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉として用いられています。eスポーツは、そもそもスポーツなのか、という議論はありますが、日本、近年急速に発展しており、これからも加速度的に成長が見込まれている産業ですので、ここでは、スポーツであるか否かという議論は措くとして、eスポーツが孕む法的な課題について紹介したいと思います。
eスポーツ大会開催における法的な問題点
eスポーツの大会を開催するにあたっては、①景品表示法の規制、②刑法の賭博罪の規制、③風営法の規制、④著作権の処理等が問題となってきます。
①景品表示法上の問題点
景品表示法では、「景品類」を「顧客を誘引するための手段として」「事業者が自己の供給する商品または役務の取引に付随して」提供する物品や金銭を指すと定めています。そして、公正取引委員会の告示(「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」)では、「2 懸賞により提供する景品類の最高額は、懸賞にかかる取引の価額の二十倍の金額(当該金額が十万円を超える場合にあっては、十万円)を超えてはならない。」と規定されています。
つまり、eスポーツの大会を開催する際に、景品の最高額が取引価額の20倍(10万円以上であれば、10万円)を超えないようにしなければなりません。つまり、10万円以上の賞金を提供することができません。
この点については、消費者庁に対するノーアクションレター(事業活動に関係する具体的行為が特定の法令の適用対象となるかどうか、あらかじめ所管の行政機関に確認する手続)における回答で、賞金の提供先をプロライセンス選手に限定する大会や、賞金の提供先はプロライセンス選手に限定されないが、一定の方法により参加者が限定されている大会について、いずれも「景品類」ではなく、「仕事の報酬」と認められるとの回答がありました。
プロライセンスについては別の記事で詳述しますが、景表法の規制を受けずに大会を開催し、10万円を超える賞金を提供することができる場合もあることになります。
②刑法上の問題点
刑法第186条2項では、「賭博場を開帳し」た場合には、三月以上五年以下の懲役に処すると規定されています。問題は、eスポーツの大会の開催が、「賭博」にあたるのかどうか、大会開催が「賭博場の開帳」にあたるのかどうかといった点です。
「賭博」とは、偶然の勝敗によって、財物又は財産上の利益の得喪を争うことと定義されています。この「利益の得喪」という要件は、相互的損失を意味すると解されていますので、参加者全員が参加費を支払って大会に参加し、勝者が賞金を獲得する場合(、この定義に該当することになります。
これに対し、参加者が参加費を支払っても、その参加費は大会運営費に充てられ、賞金については、別途スポンサーが資金提供をするというスキームであれば、相互的な損失には当たらないため、賭博の構成要件には該当しないことになります。
eスポーツに限らず、上記のように、参加者の参加費を山分けする形で賞金を出す形式をとることが多く見られますので、必ず賞金の出資者を分けるように注意しましょう。
③風営法上の問題点
風営法の問題としては、ゲームセンター等を営む者がその営業に関し、遊技の結果に応じて商品を提供してはならないと規定されています(風営法23条2項、2条1項5号)。そのため、ゲームセンターが、eスポーツ大会を開催して賞金を提供すると、同法違反となってしまいます。このような規制は、日本のeスポーツ産業の発展を阻害していると考えられます。
このような規制を受けない形として、屋外での仮設会場等で開催することも考えられますが、ゲーム機器を使用するものですので、あまり屋外での開催に向いていませんし、大会が2日以上にわたって開催される場合には、常設とみなされる可能性があり、風営法の適用を免れなくなってしまいます。
この点に関しては、法整備を含めて、再検討せざるを得ない状況になっていると言えるでしょう。
④著作権をめぐる問題
著作権の処理については、トラディショナルスポーツ(リアルスポーツ)との大きな違いになります。eスポーツの場合には、ゲームの著作権者が存在するため、映像、静止画、ゲーム内の文章やセリフ、BGM等の著作権はパブリッシャー(販売元・運営元企業)が保有しています。eスポーツの開催にあたっては、パブリッシャーから、上記の著作権の使用許諾を得る必要があります。
著作権者がゲームの使用を認めなければ、当該コンテンツを使った。
ライセンス契約(ある企業のブランド商品についての商標や特許などの知的財産を使用、利用することの許諾を受ける契約)については、個別交渉により定められているため、統一的な取扱規程のようなものはありません。ですので、ライセンス契約を締結する際の交渉が重要になってきます。ただ、パブリッシャー側からすると、eスポーツでは、新しいタイトルが次々と出てくるため、独占的なポジションを形成することは難しく、ライセンスを制限したり条件をつけることは難しいのではないかと思われます。
最後に
以上のように、eスポーツは、近年急速に発展してきたものであるため、現在の法制度では対応が追いついていない点も見られるなど、大会を主催する際には様々な法的問題が発生する可能性ががあります。
今後これらの法整備が進むことも考えられますが、現時点では上記のような注意点があることを理解し、法に抵触しない適切な形で運営していく必要があるでしょう。