April 3, 2020
新型コロナウイルスの影響で休業した場合の給料はどうなる? ~感染した従業員又は感染が疑われる従業員を休ませる場合~
本稿では、実際に従業員が新型コロナウイルスに感染した場合、あるいは感染が疑われる場合に、従業員の休業について、給料(100%)又は休業手当(60%以上)の支払義務は生じるかについてお話していきます。
1 従業員が新型コロナウイルスに感染した場合
まず、新型コロナウイルスに感染した場合は、その病原体を保有しなくなるまでの間、就業を制限されます(令和2年政令第11号第3条により読み替えられた感染症法18条1項、同条2項、感染症法施行規則11条3項2号)。
この就業制限により従業員が休業する場合は、使用者に故意又は過失はありませんし、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの要件を満たすと考えられるため、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられます。
したがって、給料はもちろん、休業手当も支払う必要はありません。
なお、この場合、被用者保険に加入している従業員であれば、要件を満たせば、各保険者から傷病手当金が支給されます。
具体的には、療養のために労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から、直近12カ月の平均の標準報酬日額の3分の2について、傷病手当金により補償されます。
したがって、使用者としては、給料や休業手当は支払えないが、この傷病手当金は受給できる可能性があることを説明し、申請手続に協力すべきでしょう。
また、就業規則に病気休暇制度を定めている場合は、それに従って支払う必要があります。
2 従業員が新型コロナウイルスに感染したと疑われる場合
発熱などの症状があり、新型コロナウイルスに感染した疑いがある場合は、厚労省によれば、仕事などは休み、外出などは控えるべきであるとされています。そのため、そのような従業員が休業することがありえますが、この場合に休業手当等の支払が必要かは場合を分けて考える必要があります。
まず、従業員が他者への感染のおそれなどを心配して自らの判断で休んだ場合、従業員の判断であり「使用者の責に帰すべき事由による休業」にあたりませんので、通常の病欠と扱うべきで、休業手当等の支払義務はありません。
次に、発熱などの症状があることから感染リスクを考え、使用者の判断で従業員に休業させた場合、一般的には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するため、休業手当(平均賃金の60%以上)を支払う義務が生じます。
さらに、従業員が医療機関に検査を受けに行き、陰性であると診断されたにもかかわらず、使用者の判断で休業を命じた場合、その判断の根拠となった事情にもよりますが、場合によっては故意又は過失によるものとして、給料全額の支払義務が生じる可能性があります。
以上のように、感染したことがはっきりしている場合には、給料や休業手当の支払の必要はありません。
しかし、感染が疑われる場合には、誰の判断で休業するかによって支払義務の有無、その金額が変わってきます。
そのため、その適切な判断をするために、まずは従業員の症状等をよく聞き取り、医療機関の判断を求めるなどして適切に検討していく必要があります。
また、上記の説明に基づくと、会社が休業を指示した場合には少なくとも休業手当の支払いが生じるため、指示を出さず、出勤させるという判断もありえますが、少なくとも今回の新型コロナウイルスに関してはその判断は適切ではありません。
なぜなら、もし従業員が新型コロナウイルスに感染していた場合、他の従業員や使用者にも感染するおそれが強く、会社全体に影響を及ぼしてしまいます(感染が疑われるにもかかわらず無理に出社させ他の従業員にも感染させるなどした場合、それ自体が安全配慮義務違反として他の従業員などからの損害賠償責任を問われる可能性もあります。)。
また、そのようなことにより感染者を増幅させてしまったことによる社会的信用の低下のおそれもあります。
さらに、新型コロナウイルスについては、様々な助成金が出されており、従業員を休業させた場合の補助も受けることができます。
以上からすると、新型コロナウイルス感染が疑われる場合には、休業手当を支払ってでも休業を命じた方が会社全体として、また中長期的に見て影響を抑えることができる場合が多いです。
そのため、助成金などの補助をうまく活用しながら積極的に休業を勧める方が経営判断としては賢明ではないかと思います。
雇用調整助成金については【新型コロナウイルスの影響で休業手当を支払った場合の助成金(雇用調整助成金)について】をご覧ください。