April 4, 2020
新型コロナウイルスの影響で休業した場合の給料はどうなる? ~緊急事態宣言の場合~
先日、日本医師会から緊急事態宣言を出すべきであるとの意見が出され、ワイドショーなどでも連日、いつ出されるのか、出された場合にどうなるのかなどが取り上げられています。特に東京では、新型コロナウイルスの感染者数が増加の一途を辿っており、もはや出されるのも時間の問題であるなどの意見も出ています。
そこで、本稿では、緊急事態宣言が出されたことにより休業した場合の休業手当についてお話していきます。
1 緊急事態宣言とは
まず、緊急事態宣言とは、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」といいます。)第32条に基づき、全国的かつ急速な感染のまん延により、国民生活や経済に甚大な影響を及ぼすと判断された場合に、期間や区域を定めて首相が発令するものです。
緊急事態宣言が出された場合、その対象となった区域の都道府県知事は、①外出の自粛、②興行施設の利用制限の要請・指示、③臨時施設に必要な土地の強制使用などの措置が可能となります(特措法45条等)。
この中で特に問題となるのは、②です。
②の興行施設とは、正確には、興行場法第1条1項に規定する興行場をいい(特措法45条第2項)、興行場法第1条1項に規定する興行場とは、映画、演劇、音楽、スポーツ、演芸又は観せ物を、公衆に見せ、又は聞かせる施設をいうとされています(同条項)。
したがって、たとえばサッカー場や野球場などを所有し、経営している事業者に対しては、当該施設の使用の制限や催物の開催の制限若しくは停止などの要請又は指示が出される可能性があります。
2 特措法に基づく要請又は指示により休業せざるを得なくなった場合
では、この特措法45条2項又は3項に基づく要請又は指示が出され、そこでの事業ができなくなったために休業せざるを得なくなった従業員がいた場合、会社は休業手当等を支払う必要があるでしょうか。
この場合、少なくとも会社に故意又は過失はありませんので、民法536条2項による給料全額の支払義務はありません。
次に、労基法26条に基づく休業手当(平均賃金の60%以上)の支払義務についてです。
この場合は、法律に基づき都道府県知事による要請・指示が原因であるため、(ア)その原因が事業の外部より発生した事故であること、(イ)事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすため、不可抗力によるものであるといえ、休業手当の支払義務もないと考えられます。
したがって、この場合は休業手当の支払義務もなく、休業した労働者に対して会社として休業の補償を支払う必要はありません。
3 要請又は指示の対象ではない会社の場合
では、上記のような興行施設を直接経営していない会社の場合はどうでしょうか。
スポーツチームの場合でも、自前のスタジアム等を所有しているチームは少なく、また仮にスタジアム等を所有していたとしても、クラブハウス等の事務所はスタジアムとは別の場所にあるため、スタジアムが使用できないとしても即休業ということにはならない場合も多いのではないかと思います。
しかし、こういった場合でも、緊急事態宣言によって外出自粛要請が出されるなどにより、顧客の激減や従業員が通勤できなくなる等の事態が生じ、休業を迫られる可能性も考えられます。
こうした場合についても、民法536条2項に基づく全額の支払義務はもちろん、労基法26条に基づく休業手当の支払義務を課すことも難しいと考えられます。
この点については、緊急事態宣言による直接的な影響ではなく、あくまでも間接的な影響であり、使用者の経営判断が入り込む余地もなくはないこと等から、少なくとも休業手当の支払義務は認めるべきであるとする見解も見られますが、支払義務を課すことは難しいというのが大方の意見ではないかと思います(厚労省も同様の見解をとっています)。
したがって、この場合も休業の補償を支払う必要はないと考えられます。
以上のように、緊急事態宣言を原因とする休業の場合は、会社に対して給料又は休業手当の支払義務は課されることはないことが多いと考えられます。
しかし、この場合は、そもそも会社の事業自体の維持が困難となっていることも多いでしょうから、各種助成金等の制度を利用して会社の存続に努めることが必要となってきます。
新型コロナウイルスという全世界を巻き込む未曾有の衛生危機に見舞われていますが、経営や法務について適切に対処し、助成金も活用するなどしながら、何とかこの混乱を切り抜けられればと思います。
そして、一日も早く今までどおりスポーツを楽しむことができる環境に戻るために、一人一人ができることを続けていきましょう。