March 11, 2020
スポーツジムでの事故の責任~「一切責任を負いません」は有効か?~
1 はじめに
最近、健康志向の高まりもあり、トレーニングジム等の施設の利用者が増えています。ジムの運営者には、会員の方が、ジムの施設利用中に怪我をされることを懸念される方も少なくないでしょう。そして、万一、会員の方が怪我をされても、ジム側が責任を負わなくてもすむように、新規入会者に対し
「指導中及びジム内の設備等の利用中に事故等が発生した場合であっても、当ジムは一切責任を負いません。」
というような書面に一筆書いてもらうことが多いのではないでしょうか。
このような「当ジムは一切責任を負いません」という文言を盛り込んだ書面は、「免責同意書」と言われます。しかし、果たして、この免責同意書に署名押印をしてもらえば、ジム側は一切責任を負わなくてもよいのでしょうか。
2 免責同意書の法的効力について
結論から言いますと、免責同意書に署名押印してもらったからといって、ジム側が一切の責任を免れることができるわけではありません。
免責同意書だけ見ると、ジムは一切責任を負わないというように読めます。しかし、軽い怪我ならまだしも、重篤な怪我や、最悪の場合、死亡しても一切文句は言わないということに本当に同意して署名押印する方がどの程度いるでしょうか。また、そのような場合にまで一切ジムの責任追及ができないということに同意しなければジムの会員になれない、というのは不合理ではないでしょうか。
更に、ジム側に大きな過失がある場合、例えば、マシーンが故障しており、そのことをジムが知っていたにもかかわらず長期間放置し、利用者が怪我をしたという場合にまで、ジムに何も責任を追及できないというのは、ジム側の過失を全て利用者に押しつけるもので不合理です。
民法では、社会的に妥当でない行為、法律用語でいうと、公序良俗違反の行為は無効とする、と定められています。従って、事故によって負った怪我の程度や事故の原因にかかわらず、ジム側は一切責任を負わないという免責同意書は、公序良俗違反として無効となると考えられます。
実際、スポーツクラブのプールで会員が練習中に溺死した事故に関し、クラブの会員規約に、
「クラブは、施設内で発生した事故について、クラブに故意又は重過失がある場合を除き、一切の損害賠償責任を負わない」
と定められていた事案において、
会員の生命身体に重大な被害が生じた場合においても、クラブが損害賠償責任を負わないという内容の規約については、その限りで公序良俗違反で無効といわなければならない
と判示した裁判例も存在しています(富山地裁平成6年10月6日判決)。
また、消費者保護を目的として定められた消費者契約法では、事業者と一般消費者の間の契約に関し、事業者の責任を全て免除するような条項や、事業者に故意または重過失がある場合に事業者の責任を一部でも免除するような条項は無効とされています。ジムの運営者と会員も、通常、事業者と一般消費者という関係になりますので、ジムの利用規約や免責同意書にも消費者契約法が適用され、消費者契約法に反する内容は無効となります。
3 どのように対応すべきか
事故のパターンとしては、以下の表のように、怪我が重い軽いか、また、怪我の原因についてジム側に故意または重過失があるか否かによって、4パターンに分けることができます。
ジム側に故意、重過失いずれもなし | ジム側に故意
又は重過失あり |
|
利用者の怪我が重大でない | ① | ② |
利用者の怪我が重大 | ③ | ④ |
この4パターンのうち、②、③、④については、免責同意書上、ジム側が責任を負わなくてよいような言葉が盛り込まれていたとしても、免責同意書は無効とされ、ジムが一定の範囲で責任を負わなければならない可能性が高いでしょう。
①については、免責同意書をとりつけておけば、事案によっては、ジム側が責任を免れることのできる可能性はありますが、確実ではありません。
ジム側としては、リスク管理として、ジムが責任を免れることのできる範囲を限定し、「指導中及びジム内の設備等の利用中に事故等が発生した場合であっても、当ジムに故意若しくは重過失のある場合、又は、生命身体に関する重大な被害が発生した場合を除き、当ジムは一切責任を負いません。」等という文言で免責同意書をとりつけておいた方がよいとは言えます。もっとも、これでどこまで責任を免れることができるかは定かでないので、日ごろから、利用者の方が怪我をしないよう、細心の注意を払って、運営にあたることが必要不可欠であるといえます。