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時事問題

マスクを着用しなかったことを理由とする出勤停止処分は有効か?

1 はじめに

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、スポーツに関わるチームや企業の内部でも適切な感染防止策をとることが重要となっています。もっとも、感染防止策に実効性を持たせるには、チームや企業が感染防止のための方針を定めるだけでなく、選手や従業員の方が、その方針に沿って行動することも必要不可欠です。

 

ところで、先日、ある専門学校が、マスクを着用せず会議に参加した従業員に対し、出勤停止の懲戒処分を下したというニュースが報道されました。報道によると、従業員の方は、マスク不着用の理由について「どこに行ってもマスクを買えない」と述べていたところ、出勤停止にされたとのことですが、このような懲戒処分の効力について、どのように考えるべきでしょうか

 

2 懲戒処分を科すための要件 について

そもそも懲戒処分とは、労働者が問題行為により企業秩序を乱したことに対する制裁です。「制裁」という性質上、懲戒処分は労働者に対し大きな不利益を与えるものですので、企業は自由に懲戒処分を科せるわけではなく、以下のような要件を満たしてはじめて懲戒処分を科すことができるとされています。

 

① 就業規則にあらかじめ定めがあること

従業員のどのような行為に対し、どのような制裁を科すことができるのか、就業規則で定めておく必要があります。例えば、素行不良、無断欠勤、セクハラ行為等、様々な行為が懲戒対象行為として考えられますが、それらに対し、相応の制裁内容を科すことができるということを定めておく必要があるのです。

 

ただし、あらゆる問題行為を全て具体的に網羅的に記載できるものではないので、「素行不良により企業秩序を乱したとき」「会社に有形無形の損害を与えたとき」「その他前各号に順ずる行為があったとき」等と、ある程度、包括的に記載することも許されます。

 

 

 

② 相当性

就業規則に書かれているからどのような制裁を科してもよいというわけではなく、制裁は、問題行為の内容に応じ、相当なものでなければなりません。例えば、1日だけ無断欠勤した場合と、10日連続で無断欠勤した場合とで、処分内容が異なるのは当然です。

この点については、労働契約法15条でも

当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして…社会通念上相当であると認められない場合は、その懲戒処分は権利濫用として無効とされる

と定められています。

 

 ③ 平等の原則

同種の問題について、理由なく、異なる取扱をすることは許されない、というのが平等の原則です。従って、過去に懲戒処分が科されたのと同種の問題行為が発生した場合、その過去の懲戒処分の程度、内容を参考にして、懲戒処分を科さなければなりません。

 

④ 二重処罰の禁止

一つの問題行為について、重ねて二回以上懲戒処分を科すことはできません。

 

⑤ 適正手続の保障

懲戒処分を科す前に、処分対象者に対し、言い分を主張できる機会を与えておかなければなりません。言い分を聞かずに処分してしまうと、たとえ問題行為があった場合でも、処分が無効になってしまう可能性があります。

 

3 マスク不着用のケースについて

以下、報道されていたマスク不着用のケースについて、主に論点となりそうな部分に絞って検討してみましょう。

 

まず、①の就業規則への明記という点について、「マスク不着用」という行為がそのまま懲戒事由として記載されていることはまずないと思います。しかし、会社からマスク着用の指示があったのに着用しなかったのであれば、「会社の風紀秩序を乱した」といえるかもしれません。もしくは、他の従業員等に感染リスク、最悪の場合、命の危険を及ぼす行為であるとして、「会社に有形無形の損害を与えた」といえるかもしれません。就業規則にこのような事項が懲戒対象行為として記載されていれば、形式的には、懲戒対象行為があったといえるようにも思えます。

 

しかし、報道によると、従業員の方は、マスクをどこに行っても買えない、と述べていたとのことです。確かに、マスクは暫くの間品薄状態が続いており、どこに行っても買えなかったということも十分あり得ます。これが本当だったとすると、マスクを着用できなかったことは不可抗力ということになります。まずもって、不可抗力の事由をもって懲戒処分に該当するとしてしまってよいのか、疑問が残ります。

 

また、仮に、マスクをしなかったことは他の従業員に感染リスクを与えるものであるから懲戒事由に該当する、と言えたとしても、不可抗力だったということを考慮すると、戒告など、より軽微な処分を科す方が相当といえるのではないでしょうか。

 

従って、マスクを買えなかったというのが本当だったなら、マスクを着用しなかったことを理由として下した出勤停止処分は、少なくとも②の「相当性」の要件を満たさず、無効となる可能性が高いと思われます。

 

他方、本件とは異なり、会社からマスクを支給した上でマスク着用を義務付けていたにもかかわらず、マスクを着用せず、かつ、それが一度ではなく何度も繰り返されていたというような事情があれば、出勤停止という懲戒処分も有効となる可能性はあると思われます

 

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