June 7, 2020
給付金の二重取りは許される?
当ホームページにおいても新型コロナウイルスに関連する様々な給付金・助成金を紹介してきましたが、すでに申請しただけでなく実際に受け取った方も多くなってきたと思います。
そんな中、先日ある地域で給付金を二重に支給してしまうというミスがあったと報じられるなど、給付金の支給に関するトラブルも生じてきています。
受給者側からすれば、間違って多く支払われた場合は「ラッキー!」「行政が支払ってきたんだから返さなくてよい」などと思われる方もおられるかもしれません。
そこで、今回はこのような行政のミスで給付金が多く支給された場合に返還しなくていいのかについて解説したいと思います。
原則=手元に残っている限度で返還する義務を負う
本来受け取ることができる金額を超える部分は、受け取る理由のない=「法律上の原因」のない利益であり、民法上「不当利得」と言われています。
具体例を用いて説明すると、ある個人事業主が100万円の持続化給付金を申請したところ行政が間違って200万円を支給した場合、100万円を超える部分については受け取る理由がなく(個人事業主への支給は100万円が上限とされています)、この部分は「不当利得」となります。
この不当利得の取り扱いについては、民法703条に原則が定められています。
同条では、不当利得は返還する義務を負うと定められています。
受け取る理由がないので当たり前と言えば当たり前ですが、注意点としては、返還する範囲については「その利益の存する限度において」という限定が付されています。
つまり、受け取る理由のない利益であっても、原則として、それをすでに使ってしまって手元に残っていないという場合は返す義務はありません。
しかし、この点については、受け取ったお金自体はなくなっていたとしても、それを使って買った物が手元に残っているのであれば(形を変えて残っているのであれば)、利益が存すると判断されます。
例外=受け取る理由がないことを知っていた場合は全額返還+利息や損害の支払義務がある
ただし、以上の原則に対して、民法704条において、「悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。」と規定されています。
ここでいう「悪意」とは、日常生活で使う「悪い感情」という意味ではなく、「ある事実について知っていること」を意味します。
そして、今回の問題での「ある事実」とは「受け取った利益について自分が受け取る理由がないという事実」を意味します。
つまり、給付金が間違って多く支払われた場合に、本来受け取ることができる金額を超える部分について、受け取る理由がないことを知っていた場合は、「悪意」であったということになるため、全額の返還義務+利息や損害の賠償義務を負います。
先ほどの具体例で示すと、200万円のうちの100万円を超える部分(100万円)については、全額返還する義務がありますし、受け取ったときからの利息や、余分に支払った100万円以外の損害が行政に生じていた場合の損害についても賠償しなければなりません。
新型コロナウイルスに関連する給付金については全額の返還義務が認められる可能性が高い
以上のように、不当利得については、原則として返還義務があるとしても、それが不当利得であることを知っていたか否かによって返還の範囲などが変わってきます。
ここで、「知っていたか否かなんて他人にわかりようがないのだから、『知らなかった』と言い張って、お金を使ってしまってもうないと言えばいいのでは?」と思われるかもしれません。
たしかに、人がある事実を知っていたかどうかといった主観について立証することは難しいです。
しかし、こと新型コロナウイルスに関連する給付金、たとえば前述の持続化給付金については、テレビやネットなど様々な媒体で「個人事業主は上限100万円、法人は上限200万円」と告知されており、個人事業主の方が「100万円以上もらえないなんて知らなかった」と言っても信用性は極めて低いです。
さらに、持続化給付金を申請した方はご存知だと思いますが、インターネットで申請をする際には、申請画面に受け取れる給付金額も表示されていますので、より一層「知らなかった」という言い訳は通らないと考えられます。
以上からすると、特に新型コロナウイルスに関連する給付金については、不当利得であることについての「悪意」が認められやすく、全額の返還義務が認められる可能性が高いです。
そのため、不用意に使ってしまって「知らなかった」などの言い訳を無理に通そうとすると、行政から利息や損害も請求され、訴訟提起される危険もあります。さらに、最悪の場合には刑事責任も問われる危険性もあります。
したがって、誤って多く振り込まれた場合には、よからぬことは考えずに、速やかに行政に連絡して返還することをお勧めします。